夜更けの海猫

どこでもないどこかにある、珈琲店の独り言

第1回:喫茶店とチェット・ベイカー

茶店とジャズは何故相性が良いのだろうか

 

というのも

私の師は、口癖のように

「喫茶店はジャズを流したほうが(お客が)入るし回転するんだよ」

とよく言っていた

そのマスターの店はその世界観故に、開店当初からクラシックしか流さないので、少し皮肉を含んだ口調で

「クラシックはお客が動かなくなっちゃうんだよな」

とか

そんなような事を、店が暇な時に良く口にしていた

 

往年のジャズ奏者達も

コーヒー片手に、はたまたピアノの上に置いて

ティータイムを嗜んでいる写真がいくつもある

それは紅茶も勿論のことで

コーヒーやティーの歌もいくつかあるし

ペギー・リーにいたっては

「Black Coffee」というモカエキスプレスがジャケットに写っている名盤まである

 

紅茶よりもコーヒーがアメリカ文化と密接なのは

言うまでもないのだけど

ジャズにおいては特にそれが目立つ気がするのは

私が珈琲を職にしているからであろうか

 

とはいえ

こんな疑問は本腰を入れて調べれば

今の時代いくらでも拾えてしまうのだろう

しかしここに書きたい事は

豆知識や雑学などではなく

ただ「こういうのって面白いよなあ」

という何の発展性も無い、その瞬間だけの衝動、所謂ただの独り言である

 

茶店とジャズが

私の中で輪郭を現したのは

十数年前、もはやどんな店だったのかも覚えてもいない喫茶店

お茶の合間、耳に入るBGM

繊細でハスキー、そして甘く、でも少し控えめな、なんとも絶妙なボーカルが耳についた

ジャズというものはフワッと知っていたが

インストゥルメンタルでテクニック重視ばかりで小難しそう

とか

ビッグバンドのような派手な印象しかなかった

なので

好んで聞くどころか一枚も持っていなかったし、ロックやパンクばかり聴いていた

そんな二十歳そこそこの頃である

 

店内のスピーカーからちょうど良く聞こえる音楽

その歌声と音が妙に耳に気持ち良く入ってきたものだから、私は当時使っていた第1世代のiPhoneでこれまた当時最先端だった音楽認識アプリを使った(確か、そうだった、はず)

 

Chet Baker - but not for me

 

チェット?ベイカー?

それが出てきたとき、私は衝撃を受けた

ハスキーで気怠い甘さを含んだ歌声はすっかり女性だと思い込んでいたからである

ジャズのイメージとして

快活でスウィンギンなボーカル像しか持っていなかった私にとって、それは衝撃だったのである

(後になって某アニメの影響で知っていたFly Me To The Moonなどもジャズスタンダードだったのかよと、知る)

まして男性ボーカルはシナトラのようなイメージしか持ち合わせていなかったので

こんなにアンニュイで、繊細で、どちらかと言えば内向的なジャズの世界があったのかと、脳天を直撃したのだった

 

私はその後自宅で、まだ動画や音楽のアップローダー的な意味合いが強かったYouTubeにアクセスし

チェットベイカーと検索

中古のCDを買うまでに至る

ここまでが私とジャズのファーストコンタクトであり

その後、チェット・ベイカーを始めとして

ボーカルジャズを中心に世界は広がり、ジャズの魅力にハマって行くのだった

 

長くなったので今日はここまで

 

ではまた